RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

その夜の侍@TOHOシネマズ川崎 2012年11月25日(日)

二日前に、窓口で座席指定を行った際に、
「まだ、何れの席でもご案内できます」と言われ、
思わず仰け反ってしまった。
そんなに、不人気物件だったんだ・・・・。

しかし、公開二週目に突入した訪問当日は
席数76の【PREMIER】の七割程度が埋まっている。

客層は雑多ながら、この配役であれば
そこそこ客が呼べそうな、渋い並びになっている。

【PREMIER】スクリーンに入るのは初めて。
全席がリクライニング付の豪勢なチェアで、
『109』で言えば全てが「エクゼクティブシート」だし、
『プリンスシネマ』なら「プレミアムシート」だわな。
これが、何も無ければ通常料金なんだから、
ありがたやありがたやと思ってしまう。

イメージ 1


小さいながらも鉄鋼場を経営する『中村健一(堺雅人)』は
5年前に悪質な轢き逃げ事故で妻を亡くして以来、
留守電に録音された
彼女の最後のメッセージを繰り返し再生し、
最早、残り香も消えたであろう
彼女の衣類を抱きしめながら、無為に
恋々とした日々を過ごしている。

一方、事故を起こした当人『木島宏(山田孝之)』は
所謂、人間的な優しさが欠如しており、
刑務所に収監されたことすら納得が行かず、
反省の欠片も無く、
出所後も、以前と同じ、荒んだ放埓な生活を送っている。

そんな『木島』の元に、「8月10日にお前を殺して
俺も死ぬ」と言ったカウントダウンを含んだ脅迫状が届く様になる。
『木島』は『中村』を差出人と疑う。

そんな二人が、8月の台風の夜に対峙する。


元々は「岸田國士戯曲賞」にノミネートされた演劇用の台本を
原作者の『赤堀雅秋』が映画用に脚本化し、
監督まで努めている。

どおりで、ならではの演出シーンが散見される。

舞台作品を映画化するのは簡単な様で
すこぶる難しい。
失敗例は数多あるけど・・・・。
逆に代表的な成功例は〔蒲田行進曲〕。

単純に移行してしまうと、
オーバーアクトとわざとらしさが、
眼に鼻についてしまうのだ。

で、本作もそう言った場面が
そこここで見られる(もしかしたら、
意図的かもしれないのだが・・・・)。

勿論、主演の『堺雅人』は元々が舞台出身の人だから
主人公を演じるのに、何の問題も無かったろう。
が、周辺に展開されるエピソードが余りにも
造られた印象が強すぎて、かなり引いてしまう。


豪雨の中でのシーンは
日本映画の名作からの本歌取りと見た。
長回しも含めてそうであろう。
カッコ悪さに加え、
情けなさが先にたつ演出となっており
滑稽味さは感じられない。


ここでの登場人物達は、
実は全てが孤独で、それは妻子がいる主人公の義兄や
工場で働く従業員とて例外でない。

仇討ちをする側の『中村』、敵として狙われる側の『木島』
それ以外の周辺の人々も、微妙なズレを持ちながら
不思議な感情で繋がってしまう。

出処の無い、奇妙な閉塞感に囚われた、
不思議な風合いを持つ作品に仕上がった。