RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

松井冬子展@横浜美術館 2012年2月26日(日)

セザンヌ”をやったっかと思えば“束芋”と、
振れ幅の広さが
当該館の魅力ではあるものの、
本展の主人公はデビュー今だ数年、
注目されているとしても、その英断には感心する。

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が、若い母親が、小学生らしい幼女を帯同し、
しかも彼女が〔無傷の標本〕の前で
魅入られた様に歩を停めるに至っては、
館員さんも、違う意味で、眼が釘付けになっていると言う、
事ほど左様に、館内はそれ程の混雑になっておらずとも
女性の観客が多く、
それは”蜷川実花”@オペラシティの時と同様であり、
カリスマ性であったり、その在り方に憧れる世代が多いことの
証左であろう。

サブタイトルとなっている「世界中の子と友達になれる」は
彼女の始点であるわけだが、
大きな画面を仔細に観れば、
藤の花には、大きな蜂が、それ自体が房の様に群がっており、
その中を掻き分け進む少女からは「希望」さえ感じられるものの、
他方、足の指は血に塗れ、手の指には土の跡、
後方に見える車椅子じみた揺り籠から推察される彼女の過去と、
その表情からは、盲いており、聴覚のみを頼りに
未体験の方向へと踏み出そうとするも、
それは『松井』自身が構成する「世界」であり、
けして、光りに満ちたもので無いことは
数年後に作成された、同タイトルの異作からも明らかではないか。

また、画に付けられたキャプションを仔細に視て行くと、
「丸山画廊」及びその店主の名前による蔵が頻出し、
「311」のチャリティー用に作成され
その後オークションにかけられた
三点の木の団扇も展示されるに及び、
同画廊との繋がりも、改めて認識される背景となっている。

総百点の内訳は、
「下図」「模写」「習作」「構想」「写生」といった
紙に鉛筆で描かれたものも多数あり、
常であれば、さらりと通り過ぎるところが、
本会場に於いては、作者の技量の確かさを再確認すると共に、
思索や思考の過程を、我々が反芻するに十分な知見をも与えてくれる。
例えば〔浄相の持続〕の「下図」では、
子宮内の胎児に強く巻き付く臍の緒が
完成版では色・形を違えているように。

何れにしろ、「絹本」使用時により
発揮されるように感じられる彼女の真価を
十全に堪能できる
~3月18日(日)までの展覧会は、
万難を排しても行くべし。