RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

ある過去の行方@チネチッタ川崎 2014年5月5日(月)

この時期の映画館は何処もお子連れで長蛇の列。
券売窓口の前の並びも凄く、
携帯で(チケットが)取れた・取れないと
連絡を取り合っている。

にもかかわらず
席数129の【CINE 2】は二割程度の入りと
かなり寂しい。

まぁ、封切り三週目で、上映されているのは
(現時点で)首都圏では三館のみ。
オマケに、朝イチ一回だけの上映とくれば
人気のほどはうかがい知れる。

しかし本作、事前情報も何も無しに観たわけだが、
凝った造りと、サスペンス映画にも近い味わいに
驚嘆させられてしまった。


イメージ 1


オープニングからして素晴らしいのだ。

空港に着いた男とそれを出迎える女。
二人の間には透明なガラスの仕切りが立ちはだかり
お互いに何を言っているのかさえ聞き取れない。

女は『マリ(ベレニス・ベジョ)』。自身も二人の子供がおり、
しかも、やはり子連れの相手と再婚しようとしている。

男は『アフマド(アリ・モサファ)』。イランに離れて済む
『マリ』の夫で、離婚手続きの為、パリに呼び戻される。

駐車場に向かう二人を突然の雨が襲う。
逃げ込む様に車に飛び込み、ワイパーを動かし発進させる。
リアウインドウに、映画の原題〔Le passé〕が重なり、
その文字がワイパーの動きと共に次第に消されて行く。


う~、すげ~。
これで一気に、本作の世界に引き込まれてしまった。

そして、この冒頭の数分だけで、二人の関係性と
物語の主題が雄弁に語られている。

簡素に見えて、実は濃密な数分なのだ。


やがて到着した家には
二人の娘と
再婚相手とその息子が同居しており
ただでさえ不穏な空気が漂うなか、
『アフマド』が来たことで更なる波紋が
次第に大きな波となって広がって行く。

最初は結婚生活が上手く行かなかった夫婦の
小さな諍いがまた繰り返されている
程度にしか見えなかった関係が
物語の中途から俄かに新なる様相を帯びだす。


そして、ここ一年の出来事や
互いの吐露する本心に、次々と違う角度から光が当たりだし、
我々は最後に、当初とはまるっきり異なる事実と思いを目の当たりにする。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆。

余韻の残るラストシーンは
人によれば、もやっとしている、と
感じるかもしれない。

しかし、正解の無い人生と同様、
どちらとも取れるこれで
良いのだと思う。

観る側の希望が、
そのまま解釈になって行くのだから。