RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

かぞくのくに@109シネマズ川崎 2012年8月4日(土)

8.6号の「AERA」、
「現代の肖像」で、本作の監督『ヤン・ミンヒ』が
取り上げられている。

作品の公開を睨んでのことと思うが、
これを事前に読めば、物語の背景が更に理解できる。

この映画は彼女の実体験を基にした「私映画」であり、
『ヤン・ミンヒ』が失くした「兄」は
実際には三人であったことなども
我々は知る。
血を分けた兄弟だけでなく、国家への揺らぐ信頼や肉親への疑念。
彼女の喪失感は
如何程のものだっただろう。


封切り初日、しかも一回目の上映で鑑賞。
席数72の【シアター10】は満員。
客層は、圧倒的に高齢者が多い。
自分などは、この中では若い部類なのではないか。
しかも、夫婦連れの比率が高いのも特徴的。

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1960年代の「世界の楽園」への帰国事業として
北朝鮮に渡っていた兄『ソンホ(井浦新)』が
25年ぶりに帰国するのを、
妹の『リエ(安藤サクラ)』は心待ちにしている。

ただ、今回の訪日は
脳にできた腫瘍を手術する為であるにもかかわらず、
日本での滞在は三ヶ月との短い期間に限定され、
更に24時間の監視が付くものだった。

両親は勿論、在日の友人達と旧交を温める『ソンホ』だったが、
脳の腫瘍についての医者の見立ては芳しいものではなく
加えて突然の悲しい通知が届く。


役者が良い。

井浦新』は序盤-中盤-終盤と、
異なる状況下で、感情の起伏が乏しい
抑圧された帰国者を巧く表現している。

安藤サクラ』は更に素晴しい。
国や父親への言いようの無い憤り、
兄への愛、
北朝鮮からの随行員への苛立ち。
台詞に頼らず、微妙な表情の変化だけで
それらが表出する


ディテイルの描写にも感心させられる。

監視員の『ヤン』が、出されたコーヒーに
砂糖をスプーンに大盛りで数杯入れて飲み干すシーン等は、
監督の観察力の細かさが際立っている。


基本、手持ちのカメラを使い、
微妙なブレが時に激しく、時に緩やかに見られ、
それは、その場面の人物の情動とシンクロしている様だ。

多用される長回しも、画面に緊張感を与えるのに効果大。


兄との別れのシーンに象徴される、
権力に対する、やり場の無い思いを
表面的には静謐に、しかし熱さを内包して描いた傑作である。