RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

鑑定士と顔のない依頼人@TOHOシネマズシャンテ 2013年12月14日(土)

封切り二日目。

席数224の【CHANTER-1】は
満員の盛況。

イメージ 1


美術鑑定家で、且つ自分でオクショニアーも手掛ける
『ヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)』は
その鑑定眼の確かさに加えオークション時の当意即妙な差配から
絶大な信頼と人気を博している。

しかし、一方で、
サクラの入札者を使い、
目当ての品を意図的に安く落札させ
自身のコレクションを充実させている
裏の一面も持っていた。

或る日、彼のもとに
亡くなった両親がヴィラに残した大量の美術品を
買い取って欲しいとの電話が掛かって来る。

指定された場所に赴いた『ヴァージル』が見たものは
雑然と置かれた多くの美術品。

だが、肝心の依頼人の女性『クレア(シルヴィア・フークス)』は
一向にその姿を現さない。

更には、屋敷の中で、過去に散逸した筈の
貴重な逸品の断片を見つけてしまう。

『クレア』と彼女が持つ美術品の妖しい魔力に
『ヴァージル』は次第に絡め捕られていく。


告知上の惹句は物凄いが、
物語の構造は、半分も行かない内に透けて見えてしまう。

つまり、『ヴァージル』の行く末が予見できるわけで、
問題は、その瞬間がいつ来るのか
にかかっている。

それまで観客は、色々な組み合わせを頭の中に描くのだが、
本作の主要な登場人物は五名ほどと少ないため、
却ってそこが、盲点になっており、
著名な推理小説の裏をかいている、とも言える。


脚本は練りに練られている。

特に主人公の造形がこのオハナシのキモで、
他人を寄せ付けず、潔癖主義、
しかも女性経験が無い初老の紳士。
全ての流れに、この設定が生きて来る。

なので『クレア』が姿を現すまでの一連の繋ぎは、
こちらが『ヴァージル』の眼を持って観ている様な幻惑に捉われるほど、
胸の鼓動が早くなってしまった。

また、いわゆる鑑識眼
過去の作品(要はテキストが存在する)ものにふり向けられ、
本来の意味での美意識や新しいモノを受け入れる態度を持ち合わせているかと言うと
それも疑問だ。


ゆったりと流れる時間を全く退屈に感じさせない
素晴しい描写と、そしてそれを補強する音楽の妙。


しかし、中途で出て来る教訓めいた箴言
やや鼻に付くのと、
前半に時間を使い過ぎたためか、
事態が動き出す後半部は
緩急と言えば聞こえは良いが、
かなり詰め込んだ印象も受ける。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆。

欧米の美術鑑定家やオークショニアって、
こんな豪奢な家を持ち、高価な絵画を
相当数所有できるような、そんな高収入・
高ステータスなんだろうか?

エンドロールでは、作中に使われた実際の絵画が
タイトル・作者と共に(著作権の関係だろう)ずらりと流されていく。
よくこれほどの量をと感心するのだが、
プーシキン美術館』所蔵の
ルノアール』〔ジャンヌ・サマリーの肖像〕も彼の所有とされ、
それを含めたオハナシと見るべきなのだろう。