RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

紙の月@品川プリンスシネマ 2014年11月16日(日)

封切り二日目。
席数219の【シアター6】の入りは七割程度で、
若~中年のカップルが圧倒的に多い。

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〔Paper Moon〕は『オニール』親子が主演した
ロードムービーの秀作。

紙でできたニセモノの月であっても、
信じて見続ければ、やがてはホンモノに変わるという
ココロ温まるストーリー。

翻って、まるっきり同じ邦題を持つ、
本作の場合はどうだろうか。


原作は『角田光代』の新聞小説

地元の銀行で契約社員として働く
『梅澤梨花宮沢りえ)』は、夫『正文(田辺誠一)』は出世コースに乗り、
一戸建ても構え、今だ子供に恵まれないことを除けば
なに不自由の無い暮らしを送っている。

そんな彼女が客先で出会った大学生『平林光太(池松壮亮)』と
勢いに任せて一夜を共にしたことから、止め処ないない性愛の深みに落ちていく。


ただ、そこに到る経緯、夫との心のすれ違いや
その隙間を例えば買い物等で昇華しようする行為が
尺の関係だろう、あまりにもさらりと描かれすぎ、
彼女が持つ心の闇の深淵まで、窺い知る描写にはなっていない。

また『光太』と初めて関係を結ぶ夜にしても
その振る舞いが性急過ぎ、唐突感は否めない。


その後はお決まりの、不行状な世界への堕ちて行くのだが、
観ている側としては、何時どんな形で悪事が露見するのだろうかと
胃がきりきりするほど気が気ではない。

しかしそんなことは無視するように
スクリーン上の主人公は憑かれたように金を浪費し、
顧客の金を着服することを繰り返す。

梨花』が変容していく契機になる出来事は
あくまでもそっけなくさらりと触れられ、
最初はそうとは気づかないが、
思い返せば成る程ねと得心が行く。

また、顔つきさえ次第に変わって行く様は、
舞台の数を多く踏んでいる『宮沢りえ』の面目躍如と言ったところか。


思いもしないことから(ある意味、予定調和とも言えるが)、
破綻は突然訪れる。

ただ、その後の行動と言い分が、本作の白眉。

特にラスト直前のシークエンスは颯爽とし、惚れ惚れとする疾走感、
これで終わっていればどんなに素晴らしかったろうと、残念でならない。

言い分についても、
些細なきっかけで、自分達もこのように変わってしまう、
実は危ういタイトロープの上を渡っていることを
改めて気づかせてくれる。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆。


ここでの「紙の月」は
いみじくも本人が言っている通り、
最後までニセモノであり、泡沫のシンボル。

原作のプロットだけを借り、細部は相当の脚色を施しているようだが、
それはそれで悪くない。