RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

グランド・ブダペスト・ホテル@角川シネマ新宿 2014年8月1日(金)

夏休みになると、お子様向け映画の比率が多く、
更にはシネコンの複数スクリーンをも占有するため、
観たい作品が極端に少なくなるのは困りもの。
所謂、夏枯れってやつ?

標題作は、6月6日の封切りだから
最早、二ヶ月。
ロングラン上映がお得意な【シャンテ】でも
終映となっている。

しかし、当日の当該館、
席数300の【シネマ1】は四割程度の入りと
「映画サービスデー」ということもあろうが、まだまだ盛況。

そして作品自体も、
洗練された映像に、独特のペーソスを兼ね備えた
大絶賛に近い出来。

集客力の理由が良く判る。


イメージ 1


物語りはある作家のモノローグから始まる。
創作の源泉となるアイディアは自然と無尽蔵に湧き出るわけでは無く、
自分の過去の原体験が基になっている場合が多いのだと。

彼のベストセラーとなった小説〔グランド・ブダペスト・ホテル〕も
実際は、同宿で懇意となった、ホテルのオーナーの昔語りが
底本にあるのだと。


今は年老いた『グランド・ブダペスト・ホテル』のオーナー
『ムスタファ(F・マーリー・エイブラハム)』が
どのようにして今の地位を築いたのか。

それは先代のオーナー『グスタヴ(レイフ・ファインズ)』との
肝胆照らす交流があってこそなのだが、
その仔細が虚実ないまぜとなり、
ややスラップスティックじみた表現で展開される。


舞台となるホテルの造形が、先ずは見事。
ロープウェーを使わなければ辿り着けないような
辺鄙な場所に在りながらパールピンクを主としたその外観は
周囲の黒々したした無骨な岩肌との対比で、妙に引き立つ。

映像自体も、ややチープなマット合成やミニチュアを多用し、
場面ごとには色調すら変え、
これが、オハナシの世界であることを著しく強調する。

時代的には、第二次大戦前後なので、
ナチス思わせる軍隊やそれにおもねる自国の軍隊の登場、
または、
地獄に堕ちた勇者ども〕の『エッセンベック男爵家』を彷彿とさせる
デカダンな富豪一族の描写、
何れもがエキセントリック。

そしてヨーロッパ大陸を縦横にドタバタと駆け回る、
若き日の『ゼロ・ムスタファ』と、そのコンシェルジュの師である
『グスタヴ』との息の合った掛け合い。

監督の意識が隅々まで行き渡り、
何処を取っても非の打ちどころの無い
映像美の結晶となっている。


更には笑いどころも満載。

ストーリーの鍵となる
{新古典主義}的な絵画〔リンゴを持つ少年〕だが、
ディレッタントである『グスタヴ』に言わせると
「この屋敷にある、これ以外の画は全て屑」なのだが、
では実際にどんな画が並んでいるかと言えば
クリムト』であり『シーレ』であり、これらが
かなりぞんざいな扱いを受けている。

が、現代であれば、その評価の逆転は周知のところで、
それがホテルが次第に古び、その役割を終えようとしていることと重なり
郷愁にも似た可笑しみを醸し出す。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆★。

学生の頃は頻繁に通っていた新宿の映画館は
近頃はとんとご無沙汰。

特にこの劇場は、
ロビーが狭く開場を待つにも不便だしポイントもつかないしと
良くないことだらけだけど、
それらを犠牲にしても、来て観て良かったと、
ココロから思える一作。