RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

くちづけ@チネチッタ川崎 2013年6月1日(土)

封切り二週目に突入。

席数138とさほど大きくはないものの【CINE 3】は八割程度の入りで盛況。
客層は女性の二人連れ、やや高齢のカップルが多い。

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本編の主要な登場人物で
知的障碍のある『うーやん』を演じる『宅間孝行』が
舞台用に書き下ろした脚本を底本としているのだが、
ありがちな映画になりきれない失敗作ではけして無く、
舞台と映画が見事に融合した、近来稀に見る秀作。
本年必見の一本に位置付けられる出来。


先ずカメラが良い。
手持ちカメラを駆使し、時にドキュメンタリー風の味付け。
我々をその場にいて第三者的に観ることができる位置に転化する。

更には、引きの構図。
奥に居る人達の姿はボケている。
しかし、その存在感はまざまざと感じ、
言葉を理解できているかは別にして
その場の雰囲気を感じ取ってはいることが見て取れる。


役者が良い、老いも若きも芸達者を揃え、
障害のある人に特徴的な
繰り返される奇矯な動作や極端なこだわり
独特の言い回しで表現するのは比較的ありがちだが、
主役の『阿波野マコ』を演じた『貫地谷しほり』は
表情だけでなく、
とろんとした鈍い眼の光まで再現してしまう素晴らしさ。
これは、もう演技賞モノでしょ。


そして科白廻しが良い。
掛け合いの様に突っ込まれる障碍者達の言葉は
ピュアなだけに真実を付いている。
我々が発すれば「空気を読めて無い」と断罪されることも、
私心の無い彼等の言葉は胸を撃つ。
これだけでもう落涙が止まらない。

障碍者にとって生き難い世間は
我々にとっても生きやすい世界なのか。
実は彼等の考えこそが正であり、
我々の行為こそがおかしいのではないかと、
次第に混乱や不安が押し寄せる。


散々、笑わされ、泣かされ、考えさせられた後に、
悲しみの中に、僅かな救済も見いだせるエンディングを迎える。
偽善的ではあるものの、
ここで一片の魂のカタルシスを感じることができる。


評価は☆五点満点で☆☆☆☆★。

じわりじわりと評価が広がり、
ロングランの一作となる予感。