RollingStoneGathersNoMoss健啖部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、健啖部の活動報告。文化活動履歴の「文化部」にも是非お立ち寄り下さい

鶴八@神保町

旧知の人に連れて行ってもらった。

イメージ 1
左は店を出てから撮った写真。
暖簾も下ろされ、看板の灯も消えている。
家に帰ってから、「そう言えば・・・・」と
思い出し、捜してみると「あった、あった」
六年も前に買った本(右)。

復習とばかりに確認すると、今夜、
供されたものと寸分違わぬ写真が掲載されている。


靖国通り】の喧騒が嘘のように静かな、
一本入った路地。
店構えも小体だが、中も狭くカウンター七席に、
二~三人程度の小上がり。
それも、かなり窮々に並べられた椅子である。

正面にはネタが書かれた札。
これが仕舞いになると、順次裏返されていく。
事実、我々が行った時刻には、もう蝦は無かった。

何とも厳しい顔の店主は、一見取っ付き難そうだが、
掛ける言葉は優しく、「どうぞ。お好きなものを
おっしゃって下さい」。
しかし、店の雰囲気は、一種見えない糸のようなものがある、
多少の緊張感。
常連(近隣の出版社関係の人)が多いこともあり、
一見は疎外感を感じるかもしれない。

また、ネタ等についての質問をした時に語られる薀蓄に
多少辟易する向きもあるかもしれない。
何と言っても、此処では彼が定法なのだから。

が、つまみに切って貰った刺身は勿論、握りも
相当美味しい。
上記に挙げた環境面を補って余りある。


〔鉄火〕は三色の巴。鮪の各部位の味が混然となる。

〔塩むし〕は鮑だが、生と違って、貝本来の旨味が楽しめる。
厚手の切り身でも十分に軟らかい。
握りは、ツメを一垂らしして供されるが、すっきりとシャリに
添っている。

絶品は〔アナゴ〕。軟らかく煮あがっているのは勿論だが、
それが口の中でほろりとほどける。
しかし、魚の繊維はしっかり感じる。
また、ツメがすごい。まるでチョコレートのようだ。
相当の粘度と、甘味・旨味。そして喉を通る時の仄かな苦味。
もう絶品。三貫も食べてしまった。

それ以外にも〔シマアジ〕〔コハダ〕〔タコ〕〔おぼろ巻き〕等など。
当然、「これが無くなったら、店を閉めなくちゃぁいけない」
という〔マグロ〕も(握ってもらったのは「赤味」だけだが)、
鼻に抜ける香りが素晴しかった。

ネタ札に無いものでも、お願いすれば、有る物は誂えてもらえる
(例えば、〔のり巻き〕とか)。
基本、煮切りを塗らないので、醤油皿につけて頂くのだが、
先に挙げた〔のり巻き〕などは、「そのままどうぞ」と言われる。
何品か、そう言った食べ方を勧めるネタもあるようだ。

旬を無理に追いかけて、広げることをせず、
丁寧に仕事をして、一番良い状態の時に出す。
一度切る毎に、包丁は交換する。
二貫付けだが、最初にお願いすれば、一貫でも供する。
山葵抜きを厭わず、丁寧に応対する。
自分の納得出来ないものは出さない(漬け込んだ〔ハマグリ〕を
時々取り出しては返しているので、「食べたい」といったところ、
「明日の五時以降が食べ頃。それ以前は何があっても」との返答)。
まことに、あっぱれな矜持である。

また、トイレには茶が焙じられ、良い香りが漂っている。
こういった心遣いは立派。

お代の方は、さほど激しく飲食いしなければ(つまみを適当に切ってもらい、
そこそこお腹が膨れる程度に握ってもらい、ビールを数本)、
一人1.5万円は、まず超えないようだ。
お高いという感覚は無い。
ネタの数は多くないが折々に訪れ、旬の味を小まめに確認したくなる店である。